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名古屋地方裁判所 昭和63年(ワ)2433号 判決

当事者の表示 別紙のとおり

主文

一  被告らは原告に対し各自金一八〇万円及びこれに対する被告青山秋義は昭和六三年八月一七日から被告青山城は同月一三日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決は、主文一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し各自金三〇〇万円及びこれに対する被告青山秋義は昭和六三年八月一七日から、被告青山城は同月一三日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は昭和五八年四月から愛知県犬山市議会議員(日本共産党所属)の地位にある。原告(三九才)は犬山市東部の長者町団地(戸数約六五〇戸)内の肩書住所地の自宅に、妻(三七才)、長女(一一才)、長男(七才)、二女(一才)及び目の不自由な義母(六七才)とともに居住し、他方、右自宅から約三〇〇メートル離れた同団地内に事務所を有し、議員活動及び後援会活動の拠点として使用している。

(二) 被告青山秋義(以下「被告秋義」という。)は愛知県江南市に総本部を置く右翼団体日本青風同盟の会長であり、被告青山城(以下「被告城」という。)は被告秋義の息子であって、日本青風同盟の事務局長である。

2(一)  原告は、昭和六三年三月一五日、犬山市議会の一般質問において、市長交際費の一部一八万六〇〇〇円が、政治献金、協賛金の名目で右翼政治結社二一団体に支出されている問題を取り上げ、市長を追及したが、このことは、翌一六日の朝日新聞朝刊全国版に、「右翼系団体に協力金」という見出しで大きく報道された。しかも、当時、原告は、日本共産党が同年八月犬山市において開催する中央人民大学夏期講座(以下「人民大学講座」という。)の準備につき、中心的役割を担って活動していたが、このことは、被告らにおいて、右新聞報道があった前後に情報として得ていた。

(二) かくて、被告らは、右のような原告の市議会における問題追及に対する報復、攻撃及び人民大学講座の開催阻止、妨害を目的として、右新聞報道があった翌日の同年三月一七日、犬山駅前で街頭宣伝活動(以下「街宣」という。)をしたのを始めとして、原告個人に対して次のような街宣(以下「本件街宣」という。)を繰り返した。

(1) 昭和六三年四月三日、被告らは、右翼団体五九団体、約三四〇人、街宣車八二台を連ねて犬山市へ押しかけた。被告秋義は、人民大学講座の会場とされている犬山市民文化会館前において、同会館管理者たる犬山市教育長に対し右会場貸与取消を迫る抗議文を読み上げた。ついで、被告らを中心とする右街宣車八二台が長者町団地に乗り付け、スピーカーの音量を最大にして約三〇分間にわたり、「人民大学阻止」、「岡覚は出ていけ。」などと怒号を繰り返し、原告の自宅に向かってば声をあびせるなどした。

(2) 同月一七日午後三時ごろ、被告らの意を受けた右翼団体の護誠塾らの街宣車二台が、長者町団地に乗り付け、スピーカーの音量をいっぱいにして約一五分間にわたり、「共産党は犬山市から出ていけ。」などとわめき散らした。

(3) 同月二四日午後四時ごろ、被告秋義ら数名は、日本青風同盟の街宣車で長者町団地に乗り入れ、被告秋義は「団地のみなさん共産党にだまされないようにしましょう。」、「岡覚を追い出そう。」、「どうしても(人民大学を)やるなら、我々は三〇〇〇台の街宣車一万人を集結させ、騒乱状態になるだろう。」と大声で怒鳴るなどした。

(4) 同年五月一四日午後二時すぎ、日本青風同盟らの街宣車一二台が長者町団地に乗り入れ、被告秋義ら三名が三〇分間にわたって演説をした。被告秋義の演説内容は、「いいか岡さん、二〇〇〇人の犬山の文化会館に集まるのを阻止するんだったら、あんたの命をもらうよ。本当に。そういう覚悟であんたはやりなさい。」、「岡さん、あなたが挑発をして、我々右翼暴力団の目を覚ましたということなんですよ。暴力の根源はあなたであることをよく自覚しなさい。」、「(人民大学は)絶対的に開会は阻止しなければなりません。また、一週間に二度、三度はやってきますから」、「今度の市会議員には絶対岡は出ちゃいけない。選挙妨害をこれから始めようと思う。」などというものであった。そして、日本青風同盟を中心とする一二台の街宣車は、原告自宅周辺を取り囲むようにして怒号を繰り返した。

(5) 同月二九日午後、車体に「抹殺」と大きく書いた日本青風同盟の街宣車二台が長者町団地に乗り込み、「抹殺」の実行を暗示するお経のテープを流しながらはいかいした。

(6) 同年六月五日午後二時ごろ、日本青風同盟の街宣車が長者町団地に乗り入れ、被告城において、「共産党のうそ八百には耳を貸さない。人民大学夏期講座を絶対阻止する。」などと、被告秋義において、「あえて右翼暴力団というのであれば、右翼暴力も辞さないということであります。これからどんどん運動していきます。八月にはこうした右翼が全国から集まって参ります。」などと約一〇分間にわたり、がなりたてた。

(7) 同月七日午後三時ごろ、日本青風同盟の街宣車ほか一台が、長者町団地内を街宣した。

(8) 同月一八日午前一一時ごろ、日本青風同盟の街宣車ほか一一台が、長者町団地においてボリュームをいっぱいにしてお経を流し、「共産党岡をぶっ殺せ。共産党は日本からでていけ。共産党をぶっ殺せ。共産党をたたき出せ。」などと怒号した。

(9) 同月一九日もまた、爆竹を鳴らして、前日同様の街宣をした。当日、原告は、付近の支持者宅塀に貼り付けの政治活動用看板を取り外された。

(10) 同年七月二五日午前九時ごろ、被告らの意を受けたと思われる日本青風同盟と同じく殉国機関を上部団体とする日本国士会の街宣車が、長者町団地に乗り入れて街宣をし、また同日午後には、同じく日本救国社の街宣車が長者町団地において、「岡にだまされちゃいかん。」などと街宣をした。右街宣は、原告が同年六月二七日被告らを被申請人として、名古屋地方裁判所に、前記原告の居住及び事務所の近隣における街宣等の禁止を求める仮処分申請をし、同裁判所が同日その旨の仮処分決定をし、被告らにおいて翌二八日右決定正本の送達を受けていたのにかかわらず、これを行ったものである。

3  本件街宣は、前記のように原告の市議会における市長交際費の右翼団体への支出問題追及に対する報復、攻撃及び人民大学講座の開催阻止、妨害を目的として、計画的・継続的に遂行された一連の行為であって、犯罪行為である。すなわち、集団による音声の物理的威圧力、過激な演説内容をもって、原告を脅迫し、その名誉、信用を著しく毀損したばかりでなく、業務を妨害したものである。そして、被告らは、共謀の上、全国各地から右翼団体を犬山市に集結させ、かつ、街宣コースとして、わざわざ原告が居住する長者町団地を取り入れて選定するなどし、その中心となって本件街宣を実行した。被告らは、街宣車が長者町団地を通ることになれば、日本青風同盟の団員だけでなく、呼びかけに応じた他の右翼団体の団員も、同団地で前記2(二)のような街宣をすることを予見し、このことを認識しつつ、あえて長者団地を街宣コースに取り入れたのであるから、被告ら自身の個々の行為のみならず、日本青風同盟その他右翼団体の団員ないし構成員の行為についても、両者の間に関連共同性が認められ、共同不法行為責任がある。

4  原告は、前記2(二)のような個人に対するものとしてはほとんど例をみない集団的、執ような本件街宣によって、自分や家族の生命・身体にいつ危害が加えられるかも計り知れない大きな恐怖と不安におそわれ、これに備えて自宅待機を余儀なくされ、著しい生活妨害を受けたばかりでなく、市議会議員の重要な活動として、市民の要請を受け、これに応じて外出することもできず、また、人民大学講座の準備もできなくなるなど、市議会議員としての業務も妨害された。更に、自分が長者町団地に居住しているため街宣車に押しかけられ、かつ、ひぼう中傷され、地元住民に迷惑をかける結果となり、市議会議員として最も重要な地元住民からの信用や名誉を著しく毀損された。しかも、原告の家族もまた、いつ街宣車がくるかも知れないという不安のなかで生活せざるを得ず、計り知れない恐怖・不安を受け、長男のごときは、長者町団地に居住する友人から「お前のところがいるから(右翼が)くるんだ。」といじめられるなど、著しい生活妨害を受けた。

原告の本件街宣によって受けた右被害は、金三〇〇万円をもって慰謝されるのが相当である。

5  よって、原告は被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、各自金三〇〇万円及びこれに対する被告秋義は本訴状送達の日の翌日たる昭和六三年八月一七日から、被告城は本訴状送達の日の翌日たる同月一三日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)の事実のうち、原告が市議会議員であることは認め、その余は知らない。

同(二)の事実は認める。

2  同2(一)の事実のうち、原告主張の新聞報道があったこと、原告がその主張のような人民大学講座の開催にあたって中心的役割を担っていたこと、被告らが事前に人民大学講座の開催を察知していたことは認めるが、その余は知らない。

同(二)冒頭の事実のうち、本件街宣が被告らにおいて人民大学講座の開催に反対する目的であったことは認めるが、その余は否認する。

同(二)(1)ないし(10)の事実のうち、(10)の仮処分決定及び本件街宣についての被告らの街宣は認めるが、それ以外の他の団体の街宣の細部については知らない。ただし、(5)中の日本青風同盟の街宣車に「抹殺」と書かれていたこと及び(10)中の殉国機関が日本青風同盟らの上部機関であることは否認する。

3  同3の事実のうち、被告らが街宣コースとして長者町団地を取り入れ選定したのは、原告に対する報復のためであったことは否認し、その余は争う。

4  同4の事実のうち、原告の個人的事情は知らないし、その余は否認又は争う。

三  被告らの主張

本件街宣は、被告らが政治結社としての日本青風同盟の反共思想を一般大衆に訴え、日本共産党の主催する人民大学講座に反対することを目的としたものであり、合法的な政治活動であり、表現の自由、政治活動の自由の範囲に属するものである。

本件街宣は、コースの設定などについて警察の許可を受けており、その態様も、通常、政治結社が宣伝する方法である。政治活動としての演説において、党とともに党主ないし党幹部の個人名をこもごも発言の対象とすることは、当然あり得ることであり、原告が市議会議員の地位にあって、日本共産党の人民大学講座(年一回の重大行事)の開催にあたって中心的役割を担っている以上、同党に対する批判のなかで、個人名を挙げられることはやむを得ない。また、スピーカーによる演説によって発生するある程度の物理的けん騷も、公職選挙運動にみられるところであって、やむを得ないものというべきである。したがって政治活動の自由から、いずれも相当性の範囲を越えるものではない。

本件街宣は、人民大学講座開催に反対する活動であって、日本共産党を目標としたものであり、原告個人に向けたものではない。被告らが本件街宣のなかで原告に触れることになったのは、人民大学講座の開催場所としての犬山市民文化会館への使用申込みが、原告の個人名によってなされていたため、日本共産党と原告を一体と考えたことによるものである。本件街宣が原告個人を目的としたものならば、街宣コースも長者町団地のみを対象とすればよいはずであり、また、多数の団体と人員が参加するはずもない。被告らは、原告に対し違法行為をなす意図はなく、現に、本件街宣のなかでなんら違法行為をしていない。

4 被告らの主張に対する認否

被告らの主張は争う。

被告らの行為は刑罰法規にも該当する。現に、被告秋義は、請求原因2(二)(4)について、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、脅迫罪で罰金一〇万円に処せられている。したがって、被告らの行為は、正当な政治活動といえるものではなく、表現の自由・政治活動の自由の範囲外にある。

第三証拠《省略》

理由

一  当事者について

請求原因1については、(一)の事実のうち、原告が犬山市議会職員であること及び(二)の事実はいずれも当事者間に争いがなく、(一)のその余の事実(ただし、原告及び家族の年齢は昭和六三年四月一日現在)は、《証拠省略》によってこれを認めることができる。

二  本件街宣について

1  請求原因2の(一)については、同事実のうち、原告主張の新聞報道があったこと、原告が、その主張のような人民大学講座の開催にあたって、中心的役割を担っていたこと、被告らが事前に人民大学講座の開催を察知していたことは、いずれも当事者間に争いがなく、その余の事実は《証拠省略》によって認められる。

2  同2の(二)については、同事実のうち、本件街宣が、被告らにおいて人民大学講座の開催に反対する目的であったこと、本件街宣としての請求原因2(二)の(1)(3)ないし(9)が原告主張(ただし、(5)の日本青風同盟の街宣車の車体に「抹殺」と大きく書いてあったことは除く。)のとおりであること、被告らの本件街宣について、原告主張の仮処分決定がなされたことは、いずれも当事者間に争いがない。

そこで、原告主張の本件街宣のその余の目的及び請求原因2(二)の(2)(10)の街宣等について検討する。

《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  被告らは、昭和六三年三月中旬、日本共産党が年に一回開催の人民大学講座が、同年八月二〇日から同月二三日まで犬山市で開かれることを知り、かつ、前記新聞報道記事も当日これを読んで、原告が市議会で市長交際費の右翼団体への支出問題を追及していることを知るに至った。被告らの日本青風同盟は、日本共産党ないし共産主義に対する反対運動として、昭和六二年の人民大学講座が山梨県で開催されたとき、これに反対する街宣に参加したが、右新聞報道があった翌日の昭和六三年三月一七日には、早速、名鉄犬山駅前で、人民大学講座の開催に反対するなどの街宣をした。

(二)  本件街宣は、日本青風同盟が人民大学講座開催地の地元であることから、被告らが中心となって実行した。すなわち、被告らは、本件街宣にあたり、街宣日時、規模等を決め、これを全国の盟友団体ないし同志に呼びかけて連絡し、街宣コースの設定、警察への道路使用許可申請、街宣参加団体に対する一般的指示等のほか、参加者の弁当代を負担するなどし、原告秋義は総括責任者、被告城はその補佐役として、一体となって共同して本件街宣を実行した。そして、被告城は、直接街宣に参加しなかったとき、参加者から街宣の概略について報告を受けていた。

(三)  被告らは、街宣コースの設定にあたり、原告の住居が長者町団地にあることから、これをコースの一部に取り入れ、街宣の都度、事前に、被告城が街宣の現場責任者となって警察へ道路使用許可申請書を提出し、その許可を受けていた。

(四)  昭和六三年五月一四日の本件街宣(請求原因2(二)の(4))における被告秋義の前記演説は、原告の自宅から約三〇メートルしか離れていない近くでなされ、その意図は、人民大学講座開催阻止の決意を表明し、併せて右翼団体の組織力を誇示し、少なくとも原告ないし日本共産党員を威圧し畏怖させることにあった。

同月二九日の本件街宣(請求原因2(二)の(5))の街宣車の車体には、「日本青風同盟」と横書で大きく表示され、そのほか「奸賊天誅」の文言も書かれているが、「抹殺」と大書されてはいない。

(五)  被告らは、街宣にあたり、日本共産党犬山市委員会や、人民大学講座を開催するための犬山市民文化会館の使用許可申請をした、原告と同じ日本共産党所属の犬山市議丹羽慎一郎を対象にしたことはなかった。また、前記山梨県で開催の人民大学講座に反対の右翼団体による街宣は、開催当日にあった程度にすぎず、本件街宣のように大規模で数か月も前から繰り返し行われたことはなかった。

(六)  被告らの意を受けたとの点を除き、護誠塾らの街宣車が請求原因2(二)(2)のとおり、日本国士会、日本救国社の街宣車が同(10)のとおり、それぞれ街宣をした。護誠塾、日本国士会、日本救国社は、いずれも日本青風同盟と友好関係にある政治団体であって、昭和六三年四月三日の本件街宣に参加し、護誠塾、日本国士会は、同年五月一四日の本件街宣にも参加している。なお、殉国機関は右翼政治団体の練成(勉学と訓練)を目的とする集まりで、日本青風同盟らの上部機関ではない。

(七)  原告は、本件街宣のため、やむなく仮処分申請をし、前記仮処分決定を得た。

《証拠判断省略》

まず、原告主張の請求原因2(二)の(3)及び(10)の護誠塾、日本国士会、日本救国社の街宣については、以上の認定事実によれば、右各団体がいずれも本件街宣の目的ないし趣旨を理解した上の街宣であることは推認するに難くない。しかし、右各街宣について、被告らが街宣コースを設定して警察への道路使用許可申請をし、右各団体から街宣の報告を受けたことなど、被告らの指示のもとに実行し、あるいはその意を受け相通じて実行の街宣であること、つまり、右各街宣が被告らと右各団体との共同によるものであることを認めるに足る証拠はない。右各団体が日本青風同盟と友好関係にある政治団体であるあることにかんがみても、右街宣が右各団体の独自の判断に基づく可能性を否定できず、これが被告らとの共同によるものと判断することは困難である。他に原告の右主張を認めるに足る証拠はない。

次に、原告主張の本件街宣の目的については、前記(一)ないし(五)の事実に、請求原因2(二)の(1)(3)(4)(8)の本件街宣にみられる原告名指しの過激な言辞等を併せ考えると、被告らの長者町団地における本件街宣は、人民大学講座の開催を阻止、妨害する目的もさることながら、むしろ、原告の犬山市議会における市長交際費の右翼団体への支出問題追及に対する報復、攻撃を目的とし、原告個人を脅迫ないし威かくし、ひぼう中傷することにあったものと認められる。

被告らは、本件街宣が日本共産党を目標とし、原告個人に向けたものでない旨主張し、《証拠省略》中にはこれに沿った供述部分があるけれども、たやすくこれを信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

三  本件街宣の違法性について

本件街宣(請求原因2(二)(1)(3)ないし(9)、以下同じ。)は、被告らが前記二のような目的のもとに長者町団地を街宣コースに取り入れた街宣であって、その街宣の態様に照らすと、日本共産党に所属する犬山市議会議員である原告の、市議会における右翼団体への市長交際費支出問題追及に対する報復、攻撃としての計画的、継続的な一連の行動ということができる。しかも、街宣車が大挙して長者町団地に押しかけ、スピーカーの音量を最大限にした上の原告に対する過激な言辞の繰り返しは、まさに物理的威圧力を利用しての暴力にほかならず、その上、テープでお経を流すといった陰険さは、原告を威かく脅迫し畏怖困惑させ、原告の名誉・信用を毀損する以外の何物でもないから、本件街宣が違法であることは明らかである。現に、被告秋義が、請求原因2(二)の(4)の本件街宣について、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反罪により罰金一〇万円に処せられたことは、《証拠省略》によって明らかである。

被告らは、本件街宣が合法的な政治活動であり、表現の自由、政治活動の自由の範囲内に属する旨主張するが、採用の限りでない。なお、本件街宣コースの設定につき、被告城において警察の道路使用許可を受けたことはさきに認定したとおりであるが、右許可は道路交通の秩序維持の見地からなされたものであるから、これをもって、直ちに本件街宣が適法というのはあたらない。

四  被告らの責任について

本件街宣が、被告らにおいて、参加各団体の中心となって共同して実行したものであることは、前記二2の(二)(三)認定のとおりであるのみならず、被告ら自身の本件街宣が原告主張のとおりであることも前記二の2冒頭に掲げたとおりであるから、被告らには共同不法行為責任がある。

五  原告の損害について

《証拠省略》によると、原告は、本件街宣によって請求原因4のように自由を侵害され、名誉、信用を毀損され、住居の平穏等の生活妨害を受けたことが認められる。原告のかかる被害による精神的苦痛を慰謝するには、前記二、三に説示の本件街宣の経緯ないし目的、規模、態様、特に、本件街宣に関し原告に責められる事情は全く存在しないこと、原告は、本件街宣のため、その禁止を求める仮処分申請をせざるを得なかったことのほか、原告の社会的地位、年齢、家族の状況等の諸般の事情を考慮すると、一八〇万円をもって相当と認める。

六  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告らに対し慰謝料として各自一八〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である被告秋義は昭和六三年八月一七日、被告城は同月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文、九三条一項ただし書を、仮執行宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角田清 裁判官 中谷和弘 永井秀明)

〈以下省略〉

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